140字では書けない

アラサー異常独身男性

【婚活#3】答え合わせ

寒さが堪える2月。土曜の昼下がり。
4ヶ月ぶりに新しくマッチングした女性と会うため、女性から指定されたカフェの前で
スマホをいじる中年がいた。

約束の時間を5分過ぎたが、女性は現れない。
遅刻する旨の連絡は無く、暫くして「もうすぐ着きます!」とメッセージが入った。

被害妄想が強い僕は「彼女は既に到着しているが、遠目で僕の姿を見て帰った」
「半グレにハメられる」などとつまらない可能性を考える。
挙動不審にならないよう周りを見渡す。
周りで一番怪しい人物になっていた。

集合場所となった喫茶店名古屋駅近くの商業ビルの一角に在りながら、
都心の喧騒が絶妙に和らぐエリアにあった。

これはあくまで仮定の話だが名駅直結のカフェで午前中にマッチ相手と会った後、場所を変えて一息つきながら別の相手を待つような都心でのマチアプ活動を想定した時、そのビルはまさしく都心を彷徨うマチアプ民のオアシスだった。

店の絶妙なチョイスから、今回の女性は婚活のプロではないか?
いや、プロなら時間くらい守る。いや、マチアプのプロって尊称にはならない等と考えていると、小綺麗な女性が現れた。待ち合わせ時間から20分近く経っていた。

身長167cm(自称)で、系統的には有村架純に似ている容姿だった。
昔は派手だったけれど今は地味にメイクしている美人(29歳)(自称)という印象だった。

年齢相応のファッション知識が無いため、女性の容姿に言及するとあまりに解像度が低く、ルッキズム警察にも逮捕されそうなのでこの辺りにする。

見た目がどうであろうと、初対面の人に遅刻の連絡ができない人は厳しいと思いつつ、僕自身は31歳となってマッチングアプリをやっている「訳あり」の男だ。

他人の欠点を一方的にあげつらうほど優れた人間ではないので、
まずは相手の良いところを探すことに集中した(←実は常識人アピール、見て!)

挨拶もそこそこに店に入り、女性はジンジャーエール、僕はアールグレイを頼む。
僕は猜疑心モードが全開になってしまい、ソフトドリンクを頼んだだけで
「やはり午前中にカフェに入ったから趣向を変えてるんじゃないのか?」と妄想が膨らみ続ける女々しくてキモい中年となった。女々しくてキモいおじさん、見て!!

彼女がどんな話を繰り出すのか想像もつかなかったが、ごくごく当たり障りない話題でアイスブレイクする。

お互いの地元。休日の過ごし方、最近行ったおすすめの旅行先
・・・メンエス女性との会話か?

僕からも適当な話題を提供して、それなりに会話を楽しむ。
意外と普通の人で良かったと僕は安心していた。

しかし、雑談に一区切りつくと、彼女はふと我に返ったような表情をして、
いきなり僕に仕事の詳細を聞き始めた。そして唐突に、「ところで、もし嫌じゃなければ勤務先を教えてもらってもいいですか」

・・・職質か?いや、自己紹介の時にお互いの仕事が某業界に関わっていると分かったので、僕の勤務先が業界で有名なTier1なのかそうでないのか気になったのだろう。

気になるのはいいけれど、会話の流れが下手すぎるだろ!という言葉を飲み込んで
「無名だから分からないかもしれないですよ~!」とキモい笑顔を作る。
結局、勤務先を答えた。

そこからもつまらない会話を続け、僕がほんの一瞬紅茶を飲んで気が逸れているうちに気づけば彼女はスマホを取り出していた。
そして、何かを入力して10秒ほど画面を凝視していた。
彼女と目が合うと、再びスマホをバッグに戻した。

僕「大事な連絡ですか?(心配そうな表情を作る)」
女性「いえ、大丈夫!ごめんなさい・・・!」
僕「いやいや、気にしないでください ^^(いやらしい笑顔)」

今振り返れば、勤務先を聞いてすぐにスマホを取り出している気がしたので
「(社名) 年収 」などで検索したのではなかろうか。

会話の流れがあってのスマホ操作とみると、勤務先の検索ぐらいしか彼女がスマホを操作する理由が見つからない。確証は持てないが、他の話題の時に彼女はデバイス類を全く触らなかった。
ただ、経済力はお互い重要なのは間違いない。間違いないのだけれど、あまりに露骨すぎて非礼になっていることすら気づいていないようだった。

 

 

 



会計を済ませて店を出る。
退店後に彼女からLINE交換を頼まれ、交換後に解散した。
彼女は「美容院」に行く予定があったのだと話し、慌てて人混みに消えていった。

彼女の背中を見ながら、僕は以前素敵な女性とアールグレイを飲んだ時の気分を思い出そうとしていた。(完)