140字では書けない

アラサー異常独身男性

夏の終わりのマッサージ(その2)

前回の記事はこちら
 
実家から車で40分。緑の多い閑静な住宅街。
少しだけ涼しさを運ぶようになった夏の夕方、家族にはアパートに戻ると伝えて実家を出発した。ようやく指定されたマンション駐車場が見つかり、小休憩をする。

これまで訪れた店は、繁華街の小汚い雑居ビルに入っているような所ばかりだったため、少し面食らう。
車でしか来店できない地方郊外で、まともに営業はできているのか?
慣れない道を運転した緊張を解き、座席のシートにもたれかかかる。
店から入店OKの連絡は、まだ来ない。

 


今回の店は、爆サイ(※)で閉店したお気に入り店の情報を探しているときに知った。
爆サイ:夜のお店情報や地元ヤンキー情報が固有名詞で出回る掲示板。利用者の知能が低め。

急に潰れてしまった店と同レベルの店を探すユーザーが多く、他のおすすめ店が列挙される中で今回訪れた店が挙がっていた。爆サイでは基本的にポジティブな書き込みはされない。
書き込みユーザーの治安がそもそも悪いし、いい評判を書くと予約が集中し
「お気に入り」に自分が予約できなくなるリスクがあるからだ。
 
それでも、書き込みを見る限りではスタッフ嬢の接客とビジュアルについては貶されず、定評があるようだった。
コスパについては「金ドブ」「名古屋には同じ額で〇いてくれる良店はいくらでもある」などと書かれていたが、「焦らし」に燃える変態なので、まずは自分で確認してみることにした。


とはいうものの、駐車場に着いて待機をしている時は少し後悔していた。
今回の予約が60分のベーシックコース(最上級ではない)だったこと、ネットで評判のスタッフ嬢が予約できず、枠が空いていたノーマークのスタッフ嬢にマッサージをしてもらうこと。

コースについては、こういう店ではその店の最上級コースを選んでやっと及第点というのが殆どであるため、様子見の初来店でもケチらない方が良かったかなと女々しく悔いていた。
 
指名についても、こういう田舎の店ではどんな人が来るか分からない。
過去に違法中華エステでケチってフリーコースにし、50代のえげつないおばちゃんに
全身をぬるぬるにされ、開始10分で店から逃げたことがあった(前金のため、お金を無駄にした)

以来、博打はしないをモットーに事前調査の時間と指名料はケチらず予約をしてきた。
久しぶりのマッサージで浮足立っていたのか、今回は勢いで店員の提示した嬢に予約してしまった。
危険だ・・・
 
 
時刻は20時を回ろうとしている。
真っ暗な車中でスマホが揺れた。スカした店員から部屋の準備ができたと連絡が入り、部屋に向かう。

築年数を感じる階段の踊り場を駆け上がり、XXX号室のインターホンを鳴らした。
夜のマンションの廊下に音が響き、居心地が悪い。

少しすると部屋の中から足音が近づいてきた。
「仮に合わない人でも、どうせ今回は60分コースだ。嬢以前に店のレベルが低いと思ったらここ数ヵ月のように節約モードで年内は過ごそう。地元で新規開拓は諦めて、数ヵ月に一度名古屋に行く。それでいい。」
この期に及んでクソ女々しい予防線を数秒間で張りまくると、ドアが開いた。
 
 
 
 
「こんばんは~」
ドアを開けたのは、スレンダー美人ギャルだった。
年齢が若いスタッフのようで、今までのマッサージ店で進んで指名しなかったギャル系。
僕は芸能人をよく知らないが、後から調べると安倍乙小島瑠璃子を足して割ったようなルックスだった。
青春時代には殆ど関わりあうことがなかった、学校では目立つタイプの美人ギャル。
ギャルに苦手意識があった非モテ男性なので、これまでは好んで指名してこなかったが、今回の人は何となく話が合いそうな気がした。
 
部屋に案内されながら、「どこから来られたんですか」「お店はどこで知ったの」と定番の質問をされる。
スタッフについては大当たりだ。丁寧な接客と明瞭な料金説明。
急いでシャワーを浴び、お待ちかねのマッサージを受ける。
まだ入店して数ヵ月とのことだけど、力が入ったマッサージで上手だった(ただ撫でているだけの人がよくいるので)

うつ伏せマッサージのため姿を確認できないが、しっとりした彼女の声に癒される。
ゆったりした会話の中で、僕がお尻フェチであることを伝えると、「え!!お尻フェチなの!!私も!!」と彼女は一気にテンションが上がった。
 
「同士じゃん!!」
 
客に合わせた共感コミュニケーションとは違う、妙なノリの会話が楽しい。
現在、彼女はお尻エクササイズをやっていて、インスタでお尻美人のインストラクターをフォローしているそうだ。
街でお尻の綺麗な女性を見かけると、目で追ってしまうとのこと。
また、高校時代はダンス部に所属し、がっつり鍛えていたそうだ。
後で見せてもらったが、腹筋は微妙に割れていたし、お尻は綺麗に持ち上がった形をしていた。
 
彼女とは違って、僕のお尻への興奮は単純なスケベ由来が7割くらいだけれど、
純粋に造形美を目の当たりにした興奮も3割くらいはあるので、そこで会話が盛り上がったのかもしれない。
 
 
気づくと、仰向けのマッサージが始まった。
彼女と正面で向き合う。本当に美人だった。これまで会ったスタッフで一番美人かもしれない。
THE好みの顔という感じで、恥ずかしくて目を合わせることができなかった。童貞か?
それを伝えると、彼女は「XXXXさん、かわいいね!」と爆笑する。
えげつないキワキワの紙パンツを履き、美人の前で裸で仰向けになってるのに、今更「恥ずかしい」って…
 
なんというか、性的興奮よりひたすら愛でたいという気持ちになってきた。

僕はガチ恋キモ客だ。
日々の労働で手に入れた金で、ダンス経験があって、学校で目立つタイプのギャルと過ごす時間を買っている…
 
 
振り返れば、同系統のルックスをしていた美人はこれまで所属した集団にいくらでもいた。
しかしどの場所でも自分と交わりが無かった。
SNS全盛になった学生時代、僕は彼女らの投稿をチェックしていた気持ち悪い根暗野郎である。
「イケてる面子」達の飲み会や遊びの写真を見ては、「こういう人生を過ごす人もいるんだよな」と諦念を抱いたものだった。
 
どこの場所でも僕は気持ち悪い見た目と虚弱体質、とどめにナヨナヨキャラで「虚弱キャラ」「介護枠」の扱いに甘んじてきた。
所属する集団のカーストで上位と認知されて、なおかつ実際に「強いオス」と確認して、彼女らは「彼くん」と出会う。
他の動物の生態はよく知らないが、結局人間も単純な原則で動いている。
 
非モテを特にこじらせていた大学時代、僕はそういう現実を受け入れられなかった。
しかし、社会で擦れていき、普段話すことができない美人お姉さんと会うために
お金を払うようになってから、その現実を都合よく解釈するようになった。
 
人間性を見ず、一方的に相手を性的に消費する…
そのことに昔は引け目を感じていたけれど、では「中身」と思われる人間性を見て
最初の関わりが始まり、カップルとなる人達はどれだけ存在するのか。
 
非モテ悲観論は、本来評価されるべき人間性がどの人間にも厳然と存在するのに、
顔で決まる風潮により僕たちは機会損失し、承認欲求を埋められず冷や飯を食わされている、という前提がある。
煽り運転をするバカも女を連れているのに、なんで品行方正な僕たちは…といった具合にである。
 
でもようやく受け入れられたのだけど、結局個人の人間性もオンリーワンではなくて
いくらでも類型化できるパターンの1つでしかないし、社会に出たら社会的地位と男性の魅力は不可分なものだ。

「イケメンだから恋愛感情が湧く」のではなく、「強いオス」と社会的に認識され、本能で「強さ」を確認した男性を「好き」と思い始める動物なんだ。そこに価値判断は入らない。実際に付き合うかは別にして。

「強さ」はその人から見た相対的なものだから、マッチングが成立するまで出会いの数を増やせば結婚だっていつかはできてしまうのだ。
だから社会的圧力で結婚してから、「歩み寄りが大事」などと「中身」の話が語られる。何十回も歩み寄りが必要な相手は、単なる仕事の同僚でしかないし、家族にすべきじゃないと思うが、
「中身」のチェックが出てくるのはマッチングが成立してからずっと後であり、そのチェックが容姿フィルターの後にされることに異議がないからしょうがない。
中身をチェックする前に、異性だと本能で認識しないと、無理なんである。
 
 
僕も含めて、明るい光に向かっていく走行性の虫と同じでしかない。
人間性も、類型化できるパターンの一つでしかない。

だから、"習性"に縛られる現実を悲観するのはやめた。
お金の力で、合法的手段で普段会えない女性にマッサージしてもらい快感を得る。
それの何が悪いのか。街を歩いているカップルと同じように、"習性"に従っただけだ。
結局見るべき「中身」なんてものは、霧のようなものなんだろう。
気づくのが遅すぎた。

肉欲に任せて生きるのを肯定はしない。
ただ、僕が道具みたいに彼女を消費しないためにできることは、美人のお尻で最高潮に興奮した後、「どんなタイプのお尻が好きか」と彼女に気持ち悪い話を振り、
申し訳程度の雑談をすることぐらいだ。
疑似恋愛を認知しつつ、行儀の良いワンオブゼムの利用者から抜け出して、
僅かばかりに彼女の「中身」に肉薄する可能性に賭けることぐらいだ。
他の客と同じように。