浜松のミニシアター「シネマイーラ」がコロナ影響で休業状態になっているのをツイッターのRTで知った。
「クラウドファンディングで何とかできないのかなぁ」などと在学中は一度も行かなかった割に心配する。
私はミニシアターに行くほど映画好きではなかったけれど、大学時代は周りに広義のサブカル趣味を持った人が多く、シネマイーラの存在だけは知っていた。
私がいた研究室の先輩では、ド直球の映画好き、学生なのに映像制作系の世界にがっつり入り込んでいる先輩のUさんがいた。
Uさんは強烈な先輩だったが、彼の卒業後は全く音沙汰を聞いていない。
アニメの制作進行をすると言っておられた。
少し前の美少女アニメのSHIROBAKOという作品でも取り上げられている、苛烈?でも志望者が多い仕事らしい。元気にされてるといいのだけれど。
Uさんの第一印象はサブカル男子。坊主頭なのに洒落た雰囲気を纏える日本人を人生で初めて目の当たりにした。彼と比較すると、大学に来た目的も、見据えた進路も、目下の悩みも、全てが私と別次元で、ある面では世の中への強烈な憤りを持っている先輩だった。
Uさんはオウム真理教に密着した森達也の映画について紹介してくれた。また、第二次安倍政権真っ只中の当時に政権与党への批判を強烈に語った。
詳しい人からすると、彼の反権力姿勢は何となく想像できるんではないかと思う。
Uさんは見た目こそオタク顔のサブカル男子だったが、中身は血の気が荒い活動家のようなアルファオスだったのだ。
Uさんの胡散臭さと熱量の多さは、私のいた地方国立大の学生の中では異端だったと思う。
Uさんの熱量は卒業研究にも向かっていた。彼は卒業研究で卒論とは別にして、映像作品を作っていた。
プロから見れば単なる学生のママゴトなのかもしれないが、当時から著名だった女優が出演する映画の遠方ロケに最低1ヶ月以上泊まり込みで同行し、ロケ現場で卒業制作の映像を撮りまくったという化物である(ちなみに美大などではなく普通は卒論があれば卒業可能な学部です)
正直、内容は全く憶えていないが、私の頭では理解できなかったという悔しさだけ覚えている(笑)
上記のようなUさんの圧倒的な熱量を前にして、私は彼が話した出所の怪しい情報(陰謀論と大差ない)を基にして政権批判するのは賛成できないです等と正論を言う勇気は無かった。Uさんは新興宗教の教祖っぽい圧力を持っていた。
Uさんと会った学部3年当時、私は学部就職するか院進学するかという平凡な悩みを持つ学生だった。
体調をズタボロにして悩んだ挙句、興味を優先して学部就職を前提にした研究室を選んだ直後にUさんと会った。
当時は重要な選択(と思っていたこと)をした直後で心理的な余裕が無かったのもあり、Uさんと話す中で意見が違う(=面白い)と思った価値基準などを会話の中で掘り下げることはしなかった。
胡散臭さと熱量の高い学生の単なる面白い話として消費し終わってしまった。
そこで内省をしていたとしても、結局私は今の会社に入ってしまったであろうし、辞めるか辞めないかみたいな状態で3年過ごしてしまっただろう。
それでも、ある前提条件付きで会社にしがみつくのと惰性で働くのは違う。
家庭を持たない私が、感受性を磨り減らして、読書はもちろんドラマや映画すら見なくなるような生活にまでなったのはあまりに耐えすぎたと思う。
過去の「もしも」を考えるならば、圧倒的に個人主義なUさんと「会社をどう利用するか」「どういう条件ならサラリーマンを辞めるか」などと空想でも話しておけば、今ここにまた違った現在があったかもしれないと思う。
1年前の復職以降、やっと会社を抜け出す行動をしたと思ったら今回のコロナ禍に巻き込まれた。
辞めるつもりの会社のコロナ対応なんてものは、馬鹿らしくてやっていられない。定年まで働くつもりの人が死ぬ気でやればいい。
個人主義のUさんならそう怒る気がする。
とっくに僕は会社にも、自分にも怒るべきだったんですよね。僕も、周りの同僚も、残りの人生の時間の浪費に不感症になりすぎましたよ、Uさん。